ビスの芸術散歩

心に残ったドラマ、映画、劇などを綴ります。

A子さんの恋人

大学4年生の後半、学部で一番仲の良い友人に薦められた漫画があった。

薦められたというか、友人がその漫画の主人公と同じような状況に陥っており、話題に上ったのだ。

 

興味を持った私は、その漫画を読むことにした。

タイトルは、「A子さんの恋人」。

 

最初は、

冴えない地味な30歳目前の女子が、結婚相手に2人で迷っているストーリーだと思ったが、

そんな簡素なストーリーではなかった。

 

プロを目指す集団の中で、プロになれた者、なれなかった者。

しかし、プロになった者が勝者で、プロになれなかった者が敗者なのではない。

プロになれた者が抱える苦しみもあれば、

プロになれなかった者が掴んだ別の幸せもあるのだ。

 

自分を好きになれない故に、

自分にないものを持つ人を好きになるが、

いつの間にか相手のようになりたいと自分が相手に似るように変化していき、

自分が自分で無くなる苦しさを持つ両思いのカップル。

 

こういった言葉に表すのが難しい現実を、

主人公K子が描く抽象的な漫画で表していて、よく伝わってくる漫画だった。

 

作品作りに携わりたいが、

私はそれでお金を生むほどの才能を持っているのか?

作品を産む苦しさを一生背負う覚悟はできているのか?

そういった苦しみを引き受けず、享受者に回った方が、幸せな人生を送れるのではないか?

 

就職活動の時、テレビ局で何をしたいのか、何を作る覚悟ができているのか、

結局結論が出なかった私には、登場人物たちの感情によく共感できた。

 

私は、プロになることも、ならないことも、

自信の無さから選択することさえできなかったのだ。

 

私は、今作品作りとは全く関係のない仕事に従事しているが、

自分の人生で多くの作品に触れること、作品を生むことを行い続けたいと思う。

お金にならなくても、作品作りの一つの工程にいつかは携わりたい。

 

この作品を読んで、自分の人生で行いことも少しは明確になった気がする。

ありがとう、英子さん、永太郎。