始まり。
私がこの小説と初めて出会ったのは、中学2年生だった。
私はそれまでもともと小説を読む習慣はなく、本を読む時間があったら家族や友人と話したり出掛けている方がよっぽど好きだった。割と社交的で、友人が多いタイプだったのだ。
出会いは、学校の図書館だった。
確か、ぐっと寒さが増してきていた季節だったように思う。
授業が終わった放課後、何気なく図書館をぶらついていたら、小説コーナーにある
本といえば、夏休みの課題図書で課される小説しか読んだことがないような中学生だったので、図書館の中で小説コーナーに向かうのは必然だった。
当時は「ノルウェイの森」の映画化から1年経った後で、聞いたことある題名だな、と思った。
ハードカバーの小説を棚から取り出して、固く扱いにくい表紙を開いた。
最初のフランクフルト行きの便の描写を読んで、続きをゆっくり読みたいと感じ、そのままカウンターに向かって借りた。
家で本を開き、次の日には下巻も借りた。その日中に上巻が読み終わりそうだったのだ。
上巻と下巻のバトンタッチは、家の近所のスターバックスで行われた。
甘く暖かい飲み物を飲みながら、どっぷりと「ノルウェイの森」の世界に浸かった。
確か、四日で全て読み終わったはずだ。
これは、今まで読んだ本の中で最高スピードであった。
それほどに、作品にどっぷりと浸かった、というより先が気になって気になって仕方なかった。
他のことが手につかなかったのだ。
そして、読み終わった後には、
自分の心に浮かんできた、湧き上がってきた感情をどこかに記したいという気持ちにさせられた。この気持ちは、この小説が初めてだった。私は、ノートに自分の気持ちを綴った。そのノートにはこんなことが書かれている。
「今は、まだ100%この小説から感じ取れていないように思う。大学生になって、セックスをするようになってから、この小説をまた読み返したい。」
残念、もう一度読み返したのはまだセックス経験のない大学四年生の時でした。
読み返した時、中学2年生の時のように、本に貪りつくように一気に読んだ。読んでいる間、直子のいる阿美寮みたいに、なんだか現実の世界がぼんやりして見えてくるのだ。
それが心地よくも感じるが、早く抜け出したいような気持ちにもなった。
そして同時に、意外と小説のストーリーを忘れていてることに気づき、驚いた。
自分が小説を読むようになったきっかけの本であるのに、ストーリーを忘れているなんて。
でも、人間はそんな風にできている。
みんなどんなに心を揺さぶられても、その記憶がどんどん掠れていってしまう。
でも、それはなくなったわけじゃない。
自分なりにリメイクして、なんらかの形で残っている。
むしろ、リメイクして残した方が自分に都合いいのかもしれない。
今もまた、「ノルウェイの森」を読み終わった後に感じたことはぼんやりとしている。
だけど、それでいいのだ。
何かの拍子に、そのぼんやりがくっきりする時が来るのだ。
それまで、ただただノルウェイの森は私にとって思い入れのある、大切な小説だ、
とだけ覚えていたい。
セックスも経験して、いつかまた読み返した時に鮮明な感想を書きたい。